活動レポート

第601回 実地医家のための会 例会報告

601回実地医家のための会例会が下記のように開催されましたので、その内容を報告します。

日時令和1年7月14日(日)13時00分~16時10分
場所東京医科歯科大学 B棟5階 症例検討室
テーマ糖尿病治療のこれから〜プライマリ・ケア医、薬剤師が知っておくべきこと
司会石橋幸滋先生(石橋クリニック院長)
13:00~13:05開会挨拶  世話人代表 石橋幸滋先生
13:05~14:05「これからの糖尿病治療 糖尿病の食事療法2019を中心に」
講師 一般社団法人糖尿病支援ネットワーク代表理事
イムス三芳総合病院 内分泌(甲状腺)・代謝(糖尿病)センター長  貴田岡正史先生
14:05~14:35自由交見
14:35~14:45休憩
14:45~16:05グループワーク「皆で解決、困った糖尿病の患者さん」
司会進行 石橋クリニック 石橋幸滋先生
16:05~16:10閉会挨拶 世話人代表 石橋幸滋先生
 会は二部構成で、第一部は「これからの糖尿病治療 糖尿病の食事療法2019を中心に」として、一般社団法人糖尿病支援ネットワーク代表理事の貴田岡正史生先生から診断・治療に関する御講義を頂き、第二部ではディスカッション形式で、一般外来で出会う糖尿病患者さんの困難事例への対応について考えた。

第1部「これからの糖尿病治療 糖尿病の食事療法2019を中心に」

 「糖尿病診療ガイドライン2016」はオンラインで閲覧可能であるが、現在ガイドライン改訂が進められている。本来5月に開催された日本糖尿病学会の年次学術集会でガイドラインが新しくなる(特に食事療法についてはドラスティックに変わる)予定だったが、間に合わなかったそうである。「糖尿病診療ガイドライン2016」では、総エネルギー摂取量を決めるための目標体重については、BMI22を目標として定めることされている。これは、BMI22の場合最も平均余命が長かったというデータに基づくものであるが、治療開始時のBMIが非常に高い場合はBMI22の体重を目標とするのは実際的とは言えず、「肥満を有する糖尿病患者では、まず現体重の5%の体重減少を目指す」と記載されている。しかし、この「5%」という数字は明確なエビデンスに基づくものではない。糖尿病食事療法で、健常人よりもカロリーを制限すべきとの考えは、「糖尿病患者のエネルギー消費量は一般健常者より少ない」ということを前提としていたが、最近の二重標識水法を用いた研究では、「糖尿病患者のエネルギー消費量は一般健常者と差がない」という結果が出ている。糖尿病患者はサルコペニア・フレイルを合併しやすく、その場合死亡率が上昇することがわかっていることから、高齢者糖尿病の領域では「過栄養よりも低栄養が問題ではないか?」との問題意識もある。
 米国糖尿病学会では2019年に改訂ガイドライン(ADA2019)を出しており、貴田岡先生は6月にサンフランシスコで開催された学習会に参加されたとのことである。「個別にゴールを設定する」ことが大きな特徴となっている。できない治療計画を医師から患者に押し付けても無駄になることから、治療計画は患者と相談して作り、それへ向けてのステップを、あたかもPDCAサイクルのように継続的に繰り返していくというのが提唱されている。ここで貴田岡先生から「clinical inertia(診療の惰性)」という概念の説明があった。治療目標に達していないのに惰性で同じ治療を続けてしまうことを指す「診療の惰性」は、我々の診療現場でもしばしば起こっていることである。ADA2019では、「診療の惰性」を回避することが強調されている。患者と相談して決めた治療法を常に見直し、到達可能な目標に設定し直していくことが重要である。
 患者/疾患の特性を考慮して治療の個別化を図っていく上で、「低血糖や薬剤副作用のリスク」「罹病期間」「余命」「重大な併存疾患」「血管合併症」「患者の志向」「資源や支援の体制」の7項目が挙げられた。このうち、最後の2つは治療者が介入して調整を図ることが可能である。「自己注射は患者本人または家族しかできない」ということは、「資源や支援」を考慮する上で大きな障害になることがある。また、「低血糖や薬剤副作用のリスク」については、スルホニルウレア・グリニド・インスリンのような低血糖のリスクが高い薬剤を使用している場合のHbA1cの下限が設定されている(病状によりカテゴリーを3つに分け、それぞれ下限を6.5%、7.0%、7.5%と定めている)。
 では、「BMI22を目指す」こと自体が適切なのだろうか? 7つのコホート研究をもとにBMIと死因の関連を調べた研究では、最も死因の少ないBMIは、男女とも21~27のところにあることがわかった(観察開始時の年齢は6つの研究で40歳以上、1つで35歳以上)。基本的には、当面65歳以上の患者については、推奨されるBMIには22~25と幅をもたせ、サルコペニアに関連してくる筋肉量や、フレイルに関連してくる筋力も考慮しながら、個別に目標体重を設定するという方向となっている。
 食事療法に関連し、「乳和食」の提案があった。「味噌や醤油などの伝統的調味料に、『コク味』や『旨味』を有する牛乳(成分無調整牛乳)を組み合わせることで、利用されている食材本来の風味や特徴を損なわずに食塩やだしを減らし、おいしく和食を食べてもらう調理法」とのことである。コレステロールは高くなく、高齢者に必要な栄養が豊富であり、カルシウムの量と利用効率が非常にすぐれている。牛乳はGI(glycemic index)が27と低く、米飯単独で100であるGIは牛乳と一緒に摂取すると72になる。牛乳100mlにポン酢醤油を入れて和乳食の調味料を作ることができる(詳しくは社団法人Jミルクのウェブサイトを参照)
 また、「時間栄養学」の概念についても説明があった。食べる時間帯、摂取にかける時間、食べる順番が重要である。夜間のインスリン基礎分泌はグリコーゲン分解酵素を調節しており、自律神経の優位性も22時頃に副交感神経系が優位に切り替わることもあり、摂取カロリーが同じでも時間帯が遅いほどHbA1cが高くなる。同じカロリーのチーズブッフェでも、一気に食べた場合と比べ、6分割して10分間隔で食べた場合では、血糖上昇の幅が大きく下がる。おにぎりだけを摂取した場合と比べると、チーズを先に食べてからおにぎりを食べると、摂取カロリーが多くなるにもかかわらず血糖上昇の幅は狭くなる、というデータもある。遅い時間の食事を避け、副食から摂取し、ゆっくり食べる、というのが血糖を上げないために重要である。
 最後に、ADAのガイドライン2019を中心とする薬物療法のトピックスのお話があった。ADAのガイドラインでは、「生活習慣の改善に加えてメトホルミンが第一選択である」と明確に規定され、他の薬剤については、「心血管疾患・CKD・心不全の有無」「低血糖リスク」「体重への影響」「副作用」「医療費」「患者の志向」を定期的に評価して選択する、とされている。メトグルコの「心血管疾患・CKD・心不全あり」の場合はSGLT2阻害剤もしくはGLP-1アナログが推奨されている(GLP-1アナログは日本でも経口薬の知見が進んでいる)。心血管疾患・CKD・心不全いずれもなくて、低血糖の最小化が重要な場合は、この2剤に加えDPP-4阻害薬とチアゾリジン薬も推奨される。体重増加の最小化・減量が必要な場合の推奨薬は、やはりSGLT2もしくはGLP-1アナログが推奨となっている。医療費が重大な課題の場合は、SU薬またはチアゾリジンが推奨となる。
 薬剤のトピックスとして、現在超速効型インスリンとして発売されているインスリンリスプロのバイオシミラーで、より効果の速い製品が開発されている。また、持効型溶解インスリンアナログ/GLP1アナログの配合注射液が2社から発売されることになっている。

第2部 グループワーク「皆で解決、困った糖尿病の患者さん」

 このセッションは、石橋クリニック院長で本会の代表世話人である石橋幸滋医師が症例を提示し、それに対して参加者が意見を出し合うディスカッション形式で行われた。
 1例目は50代男性で、糖尿病性網膜症があり、眼科から内科へ紹介された。多尿多飲の症状もあり、検査ではHbA1c10.6で糖尿病と診断、肥満と下肢浮腫もあり。まずどんな治療を開始するかについて意見を出し合い、DPP4阻害剤や持効型インスリンなどを、血糖の急激すぎる改善に注意しながら開始、との意見が出た。実際の投薬はSGLT-2阻害薬で開始し、体重は減少し浮腫も改善した。
 2例目は40代女性で、10年以上前にHbA1c(JDS)9.1で診断された。数年前に脳梗塞発症の既往もある。糖尿病のコントロールも不安定だが、体重120kgの肥満があり、肥満対策について討論をした。栄養士による食事指導も効果がないとのことで、病識に乏しく、本人様があまり危機感もないので、肥満や糖尿病など医学的な領域以外の、経済面や生活面での困窮状態や金銭の使い方などについて、何らかのアセスメントができないか(それをしてくれるような生活支援者のリソースが探せないか)というような意見が出たが、一方で、本人は現状を満足していると思われ、10年以上通院し続けていること自体は評価に値することであり、これまでの様々な生活改善提案も受け入れられないことを考えれば、今の医師患者関係性を維持していくことだけでも妥当だろう、という意見も出た。