活動レポート

第597回実地医家のための会例会報告

日時:平成30年9月9日(日)13時00分~16時10分
場所:東京医科歯科大学 B棟5階 症例検討室
テーマ:精神療法アラカルト
司会:角泰人先生(石橋クリニック副院長)

13:00~13:05開会挨拶 世話人代表 石橋幸滋先生
13:05~14:00「うつと不安の診療まとめ」
講師 杏林大学医学部付属病院精神神経科 助教 今村弥生先生
14:15~14:40 自由交見
14:40~14:50休憩
14:50~16:05グループワーク「どう対応する? 一般外来で出会う精神症状」
司会進行 石橋クリニック 角泰人先生
16:05~16:10閉会挨拶 世話人代表 石橋幸滋先生

 会は二部構成で、第一部は「うつと不安の診療まとめ」として今村先生から診断・治療に関する講義をいただき、第二部ではグループディスカッション形式で一般外来で出会う精神症状を訴える患者さんへの対応を考えた。

1. 第一部「うつと不安の診療まとめ」

まずうつ病の診断および鑑別診断の話があり、16項目の自己記入式のうつ病のスクリーニング法である簡易抑うつ症状尺度(QIDs-J Quick Inventory of Depressive Symptomatology 「クイズジェイ」と読む)の紹介があった。16項目のうち9項目の合計点を出し、6点以上は専門医受診を勧めるという内容で、5分程度の短時間でチェックができるので、非常に有用と思われた。今村先生が大学で診察される患者では、10点以上、20点代の方も多いとのことであった。
 また、うつ病と鑑別すべき似た病態はたくさんあり、
① 双極性障害
 うつの時期には見分けがつかないが、抗うつ剤を投与することで躁の状態となりうるので注意が必要である。双極性障害は、ゲノム解析ではうつ病より統合失調症に近い状態である。
② 依存症
 薬物・ギャンブル・インターネット・ゲームなどへの依存症で引きこもり、うつ状態を呈することがある。ゲーム障害は今年6月WHOの改訂版国際疾病分類ICD-11に「ゲーム障害」として記載された。治療は、依存行動を全面禁止するより「ハームリダクション」を行う方向になってきていると。
③ 発達症(発達障害ともいう)
 自閉症スペクトラム症候群(ASD)、注意欠陥多動性障害(ADHA)などで、うつ症状の背景に発達症がある場合がある。ASDは社会性・コミュニケーション・想像力などの感覚に偏りがあり、律儀で正義感もあるが、融通が利かず行間が読めないといった特徴がある。ADHDはうるさい、でしゃばり、思いついたら即実行、忘れもの・なくしものが多いなどの特徴があり、不注意は大人になっても治らず、うつ病を発症することもある。また、ASDとADHDが重複することもある。
④ 認知症
 年齢によっては可能性を考慮すべきで、うつ病に見える場合と合併する場合もある。55歳の患者さんにセロクエルを投与したところ身体がかたまり、後にレビー小体型認知症が発症したケースがあった。
 次に、うつ病と不安の非薬物療法の話では、まず笠原先生のうつ病の7項目の小精神療法(添付資料参照)を紹介された。これはかなり前に提唱されたものであるが、うつ病の患者に向き合う基本的な態度を紹介している。近年は、うつ病に対する認知行動療法も行われている。認知行動療法は、通常1セッション45分程度をかけるものだが、最近では、「毎日どんな行動をしたか書いてきてもらう」のように、ある程度短時間で済むように分解して行う手法もある。
 また、「少しつらくても体を動かしてもらう」という「行動活性」の有効性が証明されており、QIDs-Jで10点前後の軽いうつ病の場合、SSRI内服と運動療法を比較すると、後者の方が有効とのデータもある。ラジオ体操を長くしたような運動(太極拳など)がお勧めである。
 そして、一般に「うつ病の人を励ましてはいけない」と言われているが、必ずしもそうではなく、「最初に励ましてはいけない。最後に励ませ」とも言われている。帰り際に「つらいと思いますが、頑張りましょう」と声をかけることは良い。
 その他、非薬物療法として「マインドフルネス」の紹介があった。これは禅の思想を取り入れたもので、人の中にあるdoing modeとbeing modeのうち後者の感覚を鍛え、思考と感情は事実とは違うということに気付いていく方法である。
 また、うつ病・不安障害の治療で重要な睡眠障害について、薬物治療と非薬物治療の話があった。
 質疑応答では、大学病院での精神科外来での診療時間についての質問があり、今村先生は初診の場合20~60分程度であるが、再診では10分程度しか時間が取れないとのことであった。

2. 第二部「どう対応する? 一般外来で出会う精神症状」

第二部では、3つの症例についてグループワーク形式で検討した。
① 症例1:58歳女性(主婦)、高血圧で通院中の患者から、気分の落ち込みや集中力の低下などについて、精神科はしきいが高いのでこちら(内科)で薬がもらえないかと相談されたケース
 今村先生からのアドバイスは、本例はひょっとしたらうつ病ではなく双極性障害や認知症、発達障害が背景にあるかもしれないので、それを念頭に置き診療を進めることが必要であるとのことであった。
② 症例2:43歳男性会社員、職場での昇進をきっかけに、朝の腹痛や下痢が起こるようになり会社に行けなくなったが、本人は「何とか行けるようにしてほしい」との希望があるケース
 今村先生からのアドバイスは、ASDがある人は『年上の部下』とトラブルを起こしやすくなる傾向がある。ストレスの原因を考えると、発達障害の存在も考慮に入れるべきかもしれない。産業医や職場の復帰プログラムに関しては、企業によりかなり格差があるので、「産業医につないで安心」という考え方はしない方がよいとのことであった。
③ 症例3:22歳男子大学生、不登校からの留年があり、アルバイトと趣味の映画では外出するが大学には行けず、「自分のような人間は死んだ方がいいかも」ともあっさり口に出してしまう。
 今村先生のアドバイスは、このようなケースはゲームやパチンコ・株などにはまって依存症・引きこもり状態になっている可能性があり、やはり精神科で対応すべきでしょうとのことであった。
 メンタルヘルス協議会理事の西村由紀先生からは、こうしたケースでは多くの人に関わりを持ってもらうことが大切であるというアドバイスをいただいた。
 最後に、今村先生への質問として、「精神科へ紹介をする際にはどのような情報が必要ですか?」という質問があり、「時々紹介の理由がはっきりしない診療情報提供書があるので、その点は明確にして欲しい」こと、「外来スタッフとトラブルなどの情報があれば提供して欲しい」という返答があった。

例会資料