活動レポート

平成29年11月第593回例会報告

テーマ「病院統合再編とちょうかいネットへの展開〜人口減少地域における医療・介護連携の取り組み〜」
講師 地方独立行政法人 山形県・酒田市病院機構 日本海総合病院 島貫隆夫

1. 山形県庄内地区における病院統合再編
 以前、酒田市には市立病院と県立病院があったが、2008年に経営統合し、現在は日本海総合病院が地域の唯一の中核病院となっている。公立病院同士の統合が上手く行った例は稀であるが、日本海総合病院は、奇跡のように上手く行った。これも急性期の旧市立病院と旧県立病院の統合再編し、医療機能の分化を行ったこと、広範な地域でるため、ICT を活用した地域医療・介護連携を進めてきたことなどが、良い結果を生んだと考えている。
 公立病院改革の3つの視点としては、経営効率化、再編・ネットワーク化、経営形態の見直しなどが重要である。
 また、統合再編を成功させるためには、
1)決断できるキーマンがいる
2)関連大学との早期根回しと医師人事凍結!(大学と診療科)
3)統合相手への「敬意」を持つ
4)運営形態、人事を早期に決定する
5)可能な限り短期間に統合する
6)支援団体、特に地区医師会との良い関係を築く
などが求められている。(スライド2−5参照)

2. 地域医療情報ネットワーク「ちょうかいネット」
 このICTネットワークは、ID-Linkを利用した庄内地域医療情報ネットワークで、東日本大震災直後の2011年4月に運用が開始された。医療情報開示病院は5ヶ所で、開示病院にはプログレスノート、医師記録の全面開示を義務付けている。参照施設はすべて無料で利用できる。昨年の4月より検診センターも開示施設に加わり、酒田市、遊佐町、余目町国保の検診データを参照できるようになった。維持費用は月8万円、参照施設は無料で利用できるが、「ちょうかいネット」に公開している内容は、診療録、処方、注射、入院サマリー、患者バイタル、放射線画像・レポート、生化学検査結果、地域連携パスのファイルなどである。
 「ID-Link」の画面は、時系列のマトリックス表示となっており、医療資源が投入されたところがアイコンで示される。入院期間は図のように横バーで表示され、診療所からも記載できる。なお、「ちょうかいネット」は全国にサービス提供しているSEC社のID-Linkを利用しており、ID-Linkの機能は全国共通である。ただし、ID-Linkには様々な機能があり、それらをどのように活用するのかは利用しているユニオン毎に違うが、連携協定を結べばユニオン越え、すなわち二次医療圏越え、県境越えの利用も可能である。(スライド6−12参照)
 写真(スライド13)は、診療所でstore clientを利用している先生の診療風景であるが、ちょうかいネットが電子カルテに相乗りしており、診療内容をちょうかいネットに上げることができる。なお、Store Clientは、診療所のビー・エム・エル、Panasonic、日立、ダイナミクス、シイ・エム・エス、富士通などのシステムで動いている電子カルテも接続可能で、公開用サーバーは不要で維持費用も無料である。
 ちょうかいネットの登録患者総数は、今年の2月末で、26,129人となり(→9月末で、30,085人となり)、これは庄内地域人口の約10%(→11%)に相当する。加えて、毎月の新規登録患者数も400〜500人と順調に増加している。コンテンツ別のアクセス件数では、圧倒的に診療録、医師記録の参照が多く、次いで診療情報提供書/サマリー、そして検査、処方、PACS画像、読影レポート、注射となっている。職種別のアクセス件数では、医師の利用が圧倒的に多く、ついで看護師、それ以外の職種の利用はまだ少ない。(スライド14−16参照)
 ちょうかいネットを利用している診療所医師は、 
患者さんの理解が相当に不正確で、誤解が多いことに驚いた
病診連携が垂直ではなく水平の連携になった気がする。新しい病診連携の形である
外来ベースであっても、診療所の医師が病院での診療過程に参加できる
入院中、ほぼリアルタイムに状況を知ることが出来る
紹介元病院の他科の経過を知ることができて有用である
病院での治療、説明を理解していない患者さんが意外と多く、補足説明をして患者さんの理解が深まることもある
という意見を述べている。(スライド17)
 ちょうかいネットが稼動する前には、一部に「医師記録を全面的に開示するのは危険である」とか、「訴訟が心配だ」などの意見があったが、現在のところ問題は発生していない。
 また、ケアマネさん達の意見では、
情報が早く、退院調整等で状態が詳細に解り、とても有用である。
情報が正確である。患者さん、ご家族の情報はあいまいなことが多く苦労していた。
業務の効率化が進んだ。退院前カンファランス時間が以前の半分以下になった。
診療情報は各制度・支援につなげる根拠となり、キーパーソンとの連絡タイミングをはかりやすい。
より適切な支援、ケアプラン作成に役立つ。
超便利
などがあった。(スライド18)
 ケアマネさん達は、医師記録やリハ記録をうまく活用して、患者さんのサービスにつなげていることがわかった。ケアマネさんは ITリテラシーが低いと思っていたが、とんだまちがいであることに気づかされた。
 ちょうかいネットは救急医療の現場でも活用され、その有効性が認知されてきているが、緊急症例では、1分を争うことがあり、そのような時に便利なのが、EMS機能である。連携病院の患者IDがわかれば、患者ID入力欄に「患者ID@ems」と入力するだけで、相手先の診療情報を開示させることができ、落ち着いてから個別同意書を取得している。なお、スライド19〜28に、実際の活用例を挙げた。
 また、ちょうかいネットは検診結果にもリンクされているため、「健診」の画像一覧をクリックすると画像情報の検査結果一覧が表示されます。検査項目は胸部単純X線、MDL、マンモグラフィー、超音波画像です。過去5年間にわたり参照できる。
 次に、このサマリービュー機能の中の、JLAC10による開示病院間の検査結果の時系列表示あるが、それぞれの開示病院の検査データを、JLAC10 Codeの8桁で紐付け、病院をまたいで検査結果を時系列で参照することができる。さらに、ここに調剤薬局のデータが入ってくれば、HOTコードで紐付けして、地域での医薬品の時系列表示も可能となり、医療・介護連携における情報共有にも効率化ができるのではないかと考えている。(スライド29〜31参照)
 また、このちょうかいネットは、CSI 社で提供しているヘルスクローバーという予約システムを活用して、
1. ID-Linkから日本海総合病院の診療や検査の予約ができる。
2. 予約に於いて、MI・RA・Is を直接参照/更新するので、常に最新の空き状況を確認することができる。
3. 24時間365日の予約が可能である。
4. 予約の際、診療情報提供書(紹介状)を作成し、その内容を ID-Link 側で参照する事が出来る。
などのメリットがある。さて、酒田市内の電子カルテ採用率を個人的に調べた所、84軒中16+αというところであった。つまり普及率はせいぜい20%程度である。日本国内の診療所の電子カルテ普及率も平成24年になって、ようやく20%に達したと推定されている。(スライド32〜36参照)
 山形県では、4つの2次医療圏ごとにネットワークが構築されている。それぞれ個別にアライアンスを結び、医療情報連携を進めている。ちょうかいネットは現在二つの2次医療圏のネットワーク、そして山形大学、県立中央病院との間でアライアンス協定を結び活用しているが、現在患者が圏域を越えた受療動向に対応するために、山形県健康福祉部が中心となり、医療情報ネットワークの圏域を越えた連携推進を進めている。(スライド37〜39参照)
 またちょうかいネットでは、ケアマネジャーにも情報を開示している。登録施設数は21カ所に増えており、ちょうかいネットについてアンケート調査を行ったところ、比較的良好な結果を得た。しなしながら、ADL情報などの生活面の情報がないことや看護記録を参照したいとの要望があったため、医療と介護を結合するため共通のアセスメントシート作成を検討している。(スライド40参照)
 また、平成29年度は医療と介護の連携に、ちょうかいネットではない新しいシステム、メディカルケアステーションMCSを導入する予定である。このシステムは、栃木県医師会や京都府医師会など全国180ヶ所以上の医師会で採用されている。(スライド41〜42参照)
 庄内地域の今後の課題は、地域の過疎化、高齢化、人口減少という外部環境の変化に対して、持続的な健全経営を維持すること、職員を確保し守ること、市立八幡病院と5診療所の編入するための方策を考える、地域医療構想を着実に進めることなどである。しかし、地域で医療を守るためには、継続運営可能な医療・介護事業の設計が必要となる。そこで、競争からさらなる協調を目指して、医療連携推進法人設立の協議を開始しており、キーワードは共存である。
 具体的には、過当競争から病院を救うことが重要で、非営利を厳正化して地域独占を許容すること、地域の中で複数の病院がグループ化し、病床や診療科の設定、医療機器などの効率的な配置をすること、病院単独ではなく、地域で必要な医療を提供し、医業費用を効率化できる仕組を作ることなどが求められている。これらのことを実現するために、地域医療連携推進法人設立のための協議会が設置され、病床稼働率の減少に対してどのような対策を立てるのか、ダウンサイジングか、はたまた、病院の統合・再編へ舵を切るのかなど、具体的な検討が行われている。(スライド43〜44参照)
 庄内地域で協議を進めている地域医療連携推進法人では、急性期の日本海総合病院、急性期・慢性期の本間病院、回復期・慢性期の酒田医療センターが、それぞれの機能を分担して連携し、それに老健、特養、在宅療養、訪看が加わり、地域完結型の医療・介護連携体制を構築する。そして、ここで重要なことが、潤滑油の役割が期待される酒田地区医師会の参加で、さらに薬剤師会や歯科医師会も参加を表明している。この地域医療連携法人設立のメリットは、診療機能の重点化、集約化、経営面の効率化、人材出向などによる地域医療の充実である。そして、地域医療構想を実現し、医療・介護・福祉への切れ目のないサービスを提供し、持続可能な病院・施設運営をし、地域雇用を確保することを目指している。(スライド45〜46参照)
 今後のICTの取り組みとしては、
1. HIS系端末からのweb参照、入力
 電子カルテ用端末から調剤情報参照、NCD入力、がん登録
2. 調剤薬局から調剤情報のアップロード
 NSIPS データをクラウド経由でID-Linkで共有
3. 診療所レセコン、病院レセコンから処方・調剤情報のアップロード
4. 圏域を越えた、医療情報ネットワーク連携協定
などを検討している。
 地方における、少子高齢化、急速な人口減少は、今後の医療・介護提供体制の速やかな変革を迫るものである。いずれ急性期病院の統合、集約化は避けられないと考えるが、時間はあまり残されていない。今後は、地域統合的な視点で検討し、地域で生き残れる医療・介護システムを確立しなければならない。医療は地域性が高いので、将来に向けて地域で、しっかりと、イシューを明らかにして、解決していかなければならない。

例会資料