リレーエッセイ

#3 干支(えと)

西林茂祐

西林茂祐

昭和2年生
昭和27年大阪医科大学卒
微生物学教室を経て小児科学教室へ
昭和30年医学博士

 日本では干支は生活に溶け込んでいる。
干支の十二支は、もともと一年十二カ月を農業暦を反映したもので、それを庶民にも分かり易いように、動物を当てはめて教えたのが始まりである。
 十二支の動物を表すには、特別な漢字を用いる。子(鼠) 丑(牛) 寅(虎) 卯(兎) 辰(龍) 巳(蛇) 午(馬) 未(羊) 申(猿) 酉(鶏) 戌(犬) 亥(猪)であるが。当てはめた動物に特別な意味はない。
 和時計を研究している人は、時計の文字盤を「干支」とも呼ぶそうである。日本では時刻にも干支を使っていた。「草木も眠る丑三つ時」などと言う言葉は、今にも残っている。
 ベトナムでは丑は水牛、卯は猫、未は山羊、亥は豚に変わる。
 亥については、むしろ日本が特別で、亥は中国でも豚である。
 誰でも、
「貴方はブタ年うまれでしょう」
と言われたら、良い気持ちはしないに決まっている。
 脱線すると、イスラム教では豚を嫌う。若しイスラム教徒の亥年生まれなら大いに困ることだろう。勿論イスラム教では別の暦を使い、干支はないから支障はないだろうが。
 更に脱線すると、豚は植物の根まで掘って食べてしまうから、二度と草が生えなくなるので、生活の知恵として普及したものである。
 モンゴルは遊牧の国であるが、TVでも豚を見たことはない。そのモンゴルでは寅の代わりに豹を用いることがあるとのことである。
 方角にも干支を当てる。子が北、午が南なので、南北の線を子午線と呼ぶ。即ち経線のことで、赤道に直角に交叉するように両極を結ぶ線である。
 一方、赤道と平行な線を緯線と言う。
 経は縦糸、維は横糸のことであるから、緯度経度で地球上の地点を正確に表すことが出来る。
 物事がそうなった理由「いきさつ」を経緯と表記するのはその流れである。
 経度の原点はイギリスのグリニッジ天文台にある。
 日本標準時は明石を通る経度則ち東経135°で表している。又、韓国は三十分の時差があるが、便宜上日本標準時を使っている。
 船の方角にも干支が使われて居た。日本では航行中船首を左に振るように舵をとることを取舵(とりかじ)といい、右に振るように舵をとることを面舵(おもかじ)と言う。
 取舵とは酉(西)の方向に舵をとることであり、面舵とは卯(東)の方向に舵をとることを言う。取舵は読みの通りであり、面舵は卯の舵の「卯の」がだんだん変化していつのころからか面に変わったといわれている。
出世できないとか、運が悪いことを「うだつが上がらない」と言う。「うだつ」は梲(うだち)で、建物の棟木を支える短い柱のこと。うだつが上がるとは、建物を新築するとのことで、景気がよいことを意味する。その逆で「うだつが上がらぬ」と、使う。
 また別に、卯年と辰年は不景気なことが多かったことから、卯辰が過ぎなければ景気は回復しないのが語源だと言う説もある。
 卯辰も過ぎた今年は、少しは景気が良くなって欲しいものである。